平凡社『太陽』1984年1月号に、冨木宗行氏の父で高瀬好山工房の工人であった「宗好」を紹介する記事が掲載されている。「京の手わざ」と題されたその記事は、文・松本章男、写真・石元泰博によるもので、この号から新連載となっている。1983年10月の東京国立博物館の特別展「日本の金工」で初めて自在置物が紹介されてから間もない頃で、まだ自在置物や高瀬好山については現在ほど知られていなかったと考えられる。しかし、京都に生まれた松本章男は、高校時代の正月に見た、友人の家に飾られていた富木宗好氏の伊勢海老のことを鮮明に憶えていたのだという。 冨木宗好氏は、幼少時に父が早世したため高瀬好山のもとで育った。記事では、好山の作品を朴炭で研ぎ続ける毎日だったという少年時代のエピソードなども紹介されている。2016年「驚きの明治工藝」展図録には冨木宗行氏へのインタビューが掲載されているが、それと並んで冨木家の工人の姿を伝える貴重なものといえるだろう。 石元泰博による写真には、金象嵌の赤銅製の蝶、銀製伊勢海老の自在置物、宗好氏の手を大きく写したものもある。高知県立美術館には石元作品のアーカイブ活動を行う石元泰博フォトセンターが存在するので、こうした写真も何らかの形で展示される日が来るかもしれない。 「京の手わざ」の連載は1988年に學藝書林『京の手わざ―匠たちの絵模様』として単行本になっており、この記事も連載時と同じくカラー写真とともに収録されている。