日本根付研究会会報『根付の雫』2015年 第74号に「明治期の自在置物について」を寄稿しました。松平春嶽による明治天皇への龍自在置物の献上を軸に、近代日本美術として自在置物がどのような位置付けをされたのかという点に注目しつつ板尾新次郎・高石重義についても言及した内容になっています。
自在置物というと江戸時代の甲冑師の一派明珍による制作、高瀬好山による明治の輸出工芸としての展開という二点について語られる機会が多いものの両者の相関については判りづらい面があったと思います。今回は本当に少ししか触れることができなかったのですが、高瀬好山は当初から独自ブランドの確立を指向していたために「明珍」という一大ブランドに飲み込まれることなく昭和初期まで(工房の工人による自在置物の制作技術自体は現在まで)続くことができたのではないかということに思い至りました。
結局戦後長きにわたって自在置物は多くの人には知られないものになってしまいますが、他の明治の工芸品と比べても名称も定まることなくそのジャンル自体が忘れられてしまったのは興味深いところです。龍池会から日本美術協会へ改称後初めての美術展覧会において会頭の佐野常民が演説でとりあげるほど明珍の作品は注目され、のちに板尾新次郎・高石重義による自在置物は万国博覧会に出品されたにもかかわらず、なぜそのような結末に至ったのか?このあたりもいずれ詳しく書く機会があればと思います。
清水三年坂美術館の今年2014年の企画展予定では
5.24(土)~8.17(日)
幕末・明治の超細密根付 ― 森田藻己一派を中心に
ということになっております。
それにちなみ(?)今回はtwitterなどでは何度か紹介している台湾の超絶技巧の木彫の動画を…!
そう、なんと女性下着を黄楊の木から彫りだしているのです…!
しかもすごい超絶技巧…
さらに普通の静物としてではなく、着用している状態が再現されているのが秀逸です!
一年以上かけて彫ったらしく、高額で買いたいという人もいたようですが手放さなかったそうです。
最近の写真が出ていますが、実にシュールな絵面になっています
http://kph168899.blogspot.jp/2013/02/blog-post_5852.html
あと個人的には呆然としているこの男の子の写真が好きです(笑)
http://www.epochtimes.com/b5/7/7/1/n1760911.htm
聞くところによると台湾の人間国宝的な方らしいのですが、本当にすばらしいです!
清水三年坂美術館の村田館長を講師にその所蔵作品を手に取って鑑賞できるという銀座のカルチャーセンターの講座に参加してまいりました。
今回のテーマは「根付」!
…のはずだったのですが、何故か話は幕末明治の金工についてのことから始まり…
最初に出てきたのは明珍作の手長海老の自在置物です…??
個人的には嬉しかったのですが、何かおかしいなとは思いつつも誰も突っ込むことなく幕末明治の金工作品で続行です…!
先日大英図書館が100万枚以上の画像をFlickr Commonsで公開したのですが、その中で見つけたのがこの提物…!
おそらく西洋甲冑を身につけた人物は関節が動くように作られていて、鎖の代わりになっているのではないかと思います。本体は鉄製で金銀の装飾が施され顔と手は象牙で作られているそうです。人物からさらに小さな嚢物が提げられているみたいですが、もしかしたら西洋の盾の形を模しているのかもしれないですね。
西洋甲冑を題材にこんな奇抜な物が作られていたとは驚きました(しかも可動!)。こちらも西洋の兜や義手などの根付を作ってきましたが、(根付ではないにしろ)昔の物にこういう作例があることを知って勇気づけられるような思いがします(笑)
この図版が載っている1889年の "Japan and its Art"という本には他にも根付や鍔、刀装具も少し載っており、それらの図版も公開されています。
http://www.flickr.com/photos/britishlibrary/tags/sysnum001762257