東京富士美術館で開催中の「サムライ・アート展 ─刀剣、印籠、武具甲冑、武者絵、合戦絵─」に高瀬好山による拵の短刀が出品されています。
展示解説にによれば、この短刀「竜拵(号笛吹竜)」は全長46.0cm、短刀は刃長24.6cmmで備州長船清光の作とのこと。龍笛を象った銅と赤銅を用いた拵に、自在置物と同様の技法で製作された銀製の龍が巻き付いています。
展覧会図録にも掲載されています。
以前にもよく似た作りの短刀拵が紹介されているのを見たことがありましたが、そちらは鉄製で銘は「宗信」となっています。おそらく高瀬好山工房の工人で、宗信を名乗った冨木次三郎ではないかと思われます。
https://kako.nipponto.co.jp/swords3/KT324760.htm
清水三年坂美術館の所蔵する《龍笛矢立》は短刀拵ではないものの、東京富士美術館の「竜拵」と印象が非常に似ています。銀製の龍は龍笛の中に入り込んだ格好になっており、飛び出ている部分が可動になっています。無銘とのことですが、高瀬好山の工房の製作である可能性が高そうです。
クリスティーズのカタログ The Hartman Collection of Japanese Metalwork に掲載されている「竜飾り笛形合口拵」は自在置物の技法を用いないオーソドックスな金工によるものですが、龍が龍笛に巻き付き、上半身はその中に入り込んで首を出している、という意匠になっています(なお、同カタログには珍しい蛙や鶉の自在置物も掲載)。
東京富士美術館の「竜拵」や清水三年坂美術館の《龍笛矢立》は、実用性を度外視しても龍の部分に自在置物の技法を用いることによって、さらなる面白さを追求したのかもしれません。
龍の自在置物を器物の装飾として使用した例は、2016年の東京藝術大学大学美術館「驚きの明治工藝」展に出品された「自在龍釣舟花生」がありました。こちらは高瀬好山工房の工人「宗義」作。
スミソニアン国立アジア美術館には明珍作とみられる鉄製の鉢がありますが、こちらも自在置物と同様の製作法と思われる鯉で装飾されています。
画像はスミソニアン国立アジア美術館ウェブサイトより。
https://asia.si.edu/explore-art-culture/collections/search/edanmdm:fsg_F1907.35/
作例は多くないですが、装飾として用いられた自在置物に注目してみるのも面白いかもしれません。
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