台湾・高雄市にある MUSEUM 50 (台湾50美術館 http://museum50.com)を見学してきました。
同美術館の概要については以下の日本語記事が判りやすく解説しています。
その収蔵品はいわゆる「明治工芸」として近年注目が高まっている分野と重なるところが大きいのですが、記事にあるように台湾の日本統治時代(1895〜1945年)の50年に主眼を置いていることから、戦前の洋画や彫刻に至るまでのより広い範囲が含まれています(変わったところでは台湾で使用されていた珍しい”くろがね”の軍用サイドカーなども展示されていました)。
収蔵作品の詳細は美術館ウェブサイトのコレクション紹介を参照するのが良いでしょう。いずれも名品であることが判るかと思います。
http://museum50.com/collection.php
美術館の郭館長から解説をしていただきながらの作品鑑賞でした。彫刻では高村光雲、米原雲海といった有名な作家から、作品数が少なく見る機会の稀な作家の作品まで貴重なお話を拝聴。いくつかの作品は箱書きも見られるように展示してあったり、下面からも見られるような展示になっているのが印象に残りました。
山田宗美、黒瀬宗世らの作品は宗美の絶作との箱書きのある「太公望」の未完成作品や宗世の兎などを実際に手にとらせていただき、今回同行した鍛鉄の作家、本郷真也氏からもその制作法について興味深い仮説を聞くことができました。また加納鉄哉、安藤緑山の作品は特に多くの作品を間近で見せていただき、作品や作者について新たな知見を得られる解説を伺いました。
そして個人的には最も心惹かれる自在置物のコレクションも非常に素晴らしいもので、興奮を抑えられませんでした。
写真の蝶の自在置物は銘文から宝暦3年(1753年)作と判っている大倉集古館蔵のものですが、これと良く似た構造で同じく銘文から天正年間の作と知れる蝶の作品も見せていただきました。この蝶は家紋を表す兜の前立から発展したものと考えられますが、可動部分は意外に多く、翅だけでなく脚や腹の部分も可動となっているのを実際に確認することができました。
これまで製作年の判る最古の自在置物として知られていたのは正徳3年(1713年)作の東京国立博物館の明珍宗察作の龍でした。その完成度の高さから自在置物の製作はより古い年代から行われていたであろうことは推測できましたが、この蝶はそれを100年以上遡るものであり、江戸時代以前からこの種の作品が作られていたことを示しています。この作品が広く知られるようになれば自在置物のルーツを考える上で重要な作品として認知されるようになるでしょう。
美術館の名品図録の箱を飾っているこの宗義作の雉の自在置物も大変素晴らしい作品でした。高瀬好山工房の宗義は多くの作品を残していますが、その中でも最高のものといえるのではないでしょうか。この作品を見られただけでも本当に良かったと思います。
雉の自在置物は他に現存する作例が確認されていないという点からも貴重な作品といえます。『大阪石川家・某男爵家入札』(昭和7年)には同じく宗義作とみられる雉の作品が掲載されていますが、現存しているなら比較してみたいものです。
他にも香合になっているこれまで見たことがない作風の精巧な鉄製の兜虫、今まで見た中で最高の完成度の鉄製の伊勢海老など驚きの作品の連続でした。
今回の訪問時、入館してすぐ目に付く場所には本郷真也氏の軍鶏の作品、そして自在置物の展示の片隅には私の銀製龍自在置物もありました。素晴らしい作品が揃う中で大変光栄なことです。郭館長に改めて御礼申し上げます。
日本ではまだ知る人ぞ知る美術館かと思いますが、東京藝術大学や故宮博物院関係者も多数訪れているとのことです。現在完全予約制とのことですが、台湾に行く機会がありましたら是非訪問することをお奨めします。
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