清水三年坂美術館の村田館長を講師にその所蔵作品を手に取って鑑賞できるという銀座のカルチャーセンターの講座に参加してまいりました。
今回のテーマは「根付」!
…のはずだったのですが、何故か話は幕末明治の金工についてのことから始まり…
最初に出てきたのは明珍作の手長海老の自在置物です…??
個人的には嬉しかったのですが、何かおかしいなとは思いつつも誰も突っ込むことなく幕末明治の金工作品で続行です…!
この鯉と蝶の作品はそれぞれ別の人の作品なのですがどちらも誰だかうろ覚えになってしまいました…。
鯉はルーペでも見ましたが、鱗はもちろんのことエラのあたりも非常にリアルに再現されていました。黒いアゲハチョウの頭から胴体なども繊細な表現が素晴らしいものでした。
こちらは正阿弥勝義かと思いきや、雪峰英友の作品。
正阿弥勝義に迫るほどの技巧で全面に菊が彫られています。蓋を手に取ってみると地金の厚さがかなりあり、それを彫り崩していったことのだということを実感できます。この作品は数年前に泉屋博古館で開催された「幕末・明治の超絶技巧」展にも出品されていたのですが、なぜこんなに正阿弥勝義作品にそっくりなものがあるのだろう?と不思議に思っていました。
村田館長のお話によると英友も岡山の人で、正阿弥勝義に憧れその作品制作の手伝いなどもしていたらしいということです。あまりに自分とそっくりな作品を作ることを正阿弥勝義に難じられて勝義のもとを去った、ということを記した文書が残されているそうです。
こういう話はなかなか聞けるものではないので大変興味深いです。
その正阿弥勝義の茶入。
本体は四分一で上のほうは銀製。
正阿弥勝義は近年の人気で価格がかなりすごいことになっているそうです。
そしてここでさらに興味深い話を聞くことに…
最近「美の巨人たち」で勝義と同郷同時代のこちらも超絶技巧の工芸家、逸見東洋が取り上げられました。
臼井洋輔著「逸見東洋の世界」によると廃刀令の後東洋は勝義の工房に浸っていたとのことで、このとき金工の技術も習得したらしいのですが、「不思議なことに東洋は正阿弥勝義と技を正面から競うような色絵金工などという彫金は全くと言っていいほど作っていない」とあり、「神業師」二人が無駄に競合するのを避けたのではという見方をしています。
村田館長が勝義の親族の中川家の古老に伝わっている話として語ったところによると、東洋が勝義そっくりの作品を作ったところ勝義は怒り絶交してしまったのだそうです。東洋は後悔したそうですが以後関係が修復することはなかったのだとか…
金工の根付、緒締、印籠です。
根付は司馬温公の瓶割りの図、印籠は桃太郎の鬼退治、緒締は桃を持った仙人となっています。
そういえば結局根付はこれ一点だけだったわけですが…
やはり手違いで村田館長は今回は金工の講座だと思っていたそうです(笑)
現代の自在置物として満田晴穂氏のムカデも持ってきておられました。写真が白く飛んじゃっていますが…
前回の自在置物の鑑賞会にも持ってきていたので、かなり気に入っておられるような感じでしたね。
根付ではなく金工になってしまったのは予想外でしたが、海野勝珉、加納夏雄、香川勝広、塚田秀鏡ら帝室技芸員に加え正阿弥勝義など豪華な顔ぶれの作品を間近で楽しめたので満足です。
三井記念美術館の清水三年坂美術館所蔵品展も始まる四月頃には明治工芸を特集した書籍も出るそうで、館長は印籠と根付の森田藻己について執筆されているとのこと。今回の展示は三井記念美術館以外にも数カ所巡回するという話も伺ったので、明治工芸方面は盛り上がりそうで楽しみです。
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ponko (月曜日, 03 2月 2014 14:03)
はじめまして。先日参加した者です。
前回の自在置物は開催後に知ったので残念に思っていました。
今回は根付ということで申し込んだところ、嬉しいハプニングでした。
とても贅沢な時間を過ごしました。
このように作品を堪能できる機会は滅多になく次回も参加したいです。
自分の撮影した画像を見たら、金属の撮影は難しいと感じました。
目の前に作品がある間は、館長のお言葉が耳に入らなかったです。
作者名がかなり欠落していたのでブログを拝見し参考になりました。
ありがとうございました。
kotobuki-do (月曜日, 03 2月 2014 20:37)
ponko さん、はじめまして。
コメントいただき有り難うございます。
根付にしても自在置物にしても実際に手に取ってみることができるというのは貴重な機会ですね。このような企画は本当にありがたいです。
たしかに作品が手元にあるとお話を聞き逃してしまいますね。こちらもうろ覚えの部分が多いのですが、お役に立てましたなら幸いです。